【再び二人になるときがくる!?】これまで編
【再び二人になるときがくる!?】現在編
近い将来に待っているであろう夫婦二人の生活になったときに、
「長い間お世話しました、ではさようなら」
と置き手紙をしてこの家を去ることのないような夫婦関係でありたい。
「あの時アナタは手伝ってくれなかった! わたしは完全にワンオペだった!」といつまでも根に持つのではなく、過去のことは水に流して、もう前を向きたい。
冷え切った(少なくとも冷え切ったこちら妻側)関係を修復しつつも、楽しく明るくシニアライフを送るためにはどうしたらよいのか。
前回コラムを書いたときにたどり着いた、私がやるべきこの2つの行動を実際にやってみたら夫婦関係はどうなったか、今回の最終回では書こうと思う。
【何かやってほしいことがある場合は前もって伝える/相談する】
【共通の盛り上がれる話題を提供する】
というわけで、わたしは、半年ほど前から決まっていた、とある予定・・・これは夫と一緒に行くことになっていた某海外アーティストのライブなのだが、妻側としては特に行きたくもないし、そんなに夫が行きたいなら(一人で行けばいいのに←心の声)仕方ないから行くけど! という気持ちでOKを出していた予定・・・これに目を付けた。
チケットが取れたから予定を空けておいて! と夫に報告されたとき、夫と泊りがけでライブだなんて今は全くそんな気分じゃないのにと、げんなりしたのを覚えている。
思い返してみれば、実は去年9月に愛犬が亡くなった頃からずっと(そして年齢的にもただいま絶賛更年期真っ只中ということもあってか)夫に対してかなり冷え切った気持ちになっていたわたしは、誘われたとて全く乗り気ではなく、楽しみでもなく、なんなら交通費が勿体ない! せっかくの休みにわざわざ!と大文句を言っていたそのライブなのだが、
今回のこのコラムを書き始めたことがきっかけとなり、わたしは自分で自分のカウンセリングをしたようだった。
なんと、ライブ帰りに温泉地に一泊して観光しようと夫に相談を持ち掛けてみることにしたのだ(この心理変化の理由は前回のコラムをお読みください)。
東京から行くのにちょうどいい距離にある温泉地を調べ(日光にも行きたかったが、帰りのことを考えて関西に近づくように箱根や熱海あたりがいいのでは? と考えた)、まずは泊まりたいホテルを探す。いろんなホテルを見ているうちに、久しぶりにワクワクした気持ちになる。
「ライブの帰りにちょっと温泉で一泊したいのだけど」
長いことふさぎこんでいた妻からのこの唐突な提案に夫は戸惑いつつも
「別にいいけど・・・じゃあ休みをもう一日取ろうか」
と、その顔はほころんでいた。
一緒に温泉旅行へ行くというお楽しみプランが出来てからは、自然と二人で会話する時間が増えていった。
移動手段や時刻表を調べ、周辺で観光できる場所などを調べる。
ホテルの予約やガイドブックの購入、切符の手配。旅行のためにと、デパートへわたしの服まで一緒に買いに行った。
夜な夜な地図を見ながらあれやこれやと予定を立てるのはなんと楽しいことだっただろうか。
昼間にせっせと一人で調べるのも楽しかったが、それを夜、仕事から帰ってきた夫にプレゼンするのもまた楽しい。
一緒に旅行へ行く、という共通の目的が出来た直後からわたしのテンションは明らかに変わったのだった。
それと同時に並行してもうひとつ、密かにやっていたことがある。
それまで、夫はごはんの用意が出来るまではソファーでテレビを見ているのみで、台所へ来て食事の用意を手伝うことなど一切なく、
「ご飯できたよ」
と呼ばれれば無言のまま手ぶらで食卓へやってきて、自分の席に着き、目の前にお皿が並ぶのをただ待っているだけだった。
長年このことについてわたし自身が不満に思ったことなど無かったのだが、近年Twitterなどからの情報により、これは最悪の場合離婚案件だと(いつも奥様にそうしてもらっている世の男性陣は震えあがるがいい!)学んだ。
新聞紙やノートパソコンが常に散乱している食卓を片付け、
食卓を拭き、
ランチョンマットをセットし、
盛り付けられたお皿やお茶碗を運び、
お箸を出し、
お茶を用意。
最終的にはこれだけのことを昭和な夫にやってもらおうと計画した。
まずは、自分でコップを出し、これに氷を入れて冷蔵庫のお茶を入れて食卓まで運ぶということからスタートしてみた。
これまで夫が先に席に着いてから自分のお茶が並んでいないことに気づき、わたしに声をかけていたのを(「俺のお茶が無いな」と一言)、これはわたしがまだキッチンに居るから声をかけるのだなと気づいたので、わたしは夫が来るより前にさっさと席についてしまうことにした。
ご飯の用意ができたよと言われてあとからくるオットは、座ってから「あ!お茶が無い」と気づくが、妻がもう座ってしまっているので仕方なく自分でもう一度立ち上がって入れに行くしかない。
これを繰り返すうち、ようやく席に着く前にお茶が用意されているかどうかを自分で確認し、無かったら入れて席に着く、ということができるようになる。
たったのこれだけのことだが、これは大きな進歩だった。
自分のお茶を入れるのは自分の役割と認識するようになってからは、わたしがキッチンにいてもオットは自分のお茶は自分で入れるようになる(出来ることが一つ増えた)。
お茶を自分で入れるようになってからは、同時に冷凍庫の中の氷の有無もわかるため、製氷皿の氷が無くなる前に製氷機に水を入れるという行動も習慣づいた(出来ることがもう一つ増えた)。
それまで気まぐれにやってくれるのみであったあの、コーヒーを淹れるという仕事は完全に夫の役割になった(出来ることはさらにもう一つ増えた)。
妻にコーヒーが要るかどうかを尋ね、要ると言われれば自分のコーヒーと一緒に妻のも淹れ、一緒にお菓子も持ってきてくれる。
自分でお茶を入れるという行為が、これほどまでに大事な一歩だったとは!と、わたしは今まで何でも先回りしてやりすぎてしまっていたことを深く反省した。
先日は、食事前にキッチンへお茶を入れに来たオットにさりげなく、
「はい、これ運んで」
と次々にお皿やお椀、お箸を渡してみた。
今まで夫に運んでもらったことなど一度もない!(←それがそもそもの間違いだけれども、この負の連鎖を断ち切るためにはどうするか、が今回の課題だからね)
自然と自分のお皿を手渡され、食卓まで運ぶ夫。
心なしか妻がしんどそうに見える。ここは運んであげたほうがよさそうだ。せっせと何往復もする夫。
食事前にお皿をテーブルまで運ぶのは現在も練習中なので、習慣になっているとはまだとても言えないが、これもきっとすぐに習慣化されることだろう。
結婚生活が長く続けば続くほど、そして、もしかすると子どもがいる家庭の方がこの状況に陥りやすいのかもしれない、子どもが大きくなった後の夫婦間の深すぎる溝。
最初は小さなひずみだったのが、いつの間にか大きな隔たりとなり、会話は徐々になくなりお互いにもはや空気のような存在になり(話さなくても伝わる阿吽の呼吸的な?)、それはいつしか、 いなくてもいい存在なのでは?と思うほどにその存在は無価値なものとなっていく。
もう一度関係を改善するためにと、せっかくいいところを探して相手を見直したのに、それを上回る嫌なところに気づき、またもや冷え冷えとした気持ちに上塗りされてしまうこともあるだろう。
大切なのは対話や言葉だとわたしは思う。
事態を良くしようと自分で努力しなければ、他の誰かが良くしてくれるわけではない。
言わなくても分かることなんてこの世には無い。態度を見ていたらわかる?そんなことはない。すべては言葉に表さないと相手には伝わらない。
感謝を伝えるというのはその人の存在を認めるということ。
認められると嬉しいし、それは自信につながる。
わたしは今回、夫と行った旅でサプライズを用意した。
ちょうど結婚記念日の月だったので、夕食時にお祝いのプレートを出してもらえるよう、夫には内緒でホテルに頼んでおいたのだ。
普段は全く感謝の気持ちをお互いに言葉に表すこともしない冷めきった夫婦なのだが、妻が用意した結婚記念日を祝うプレートを見た夫はこの日、わたしにどれだけ日頃感謝しているかということを切々と語り始めたのだった。
もしわたしと結婚していなければ、自分はとうにダメになっていたと、
もしわたしがいなければこんなに素晴らしい子どもたちに恵まれることも無かったと、
3人とも大学まで育てることももちろん出来なかったと、
自分が好きなことを出来ているのも、今の生活があるのも全て、わたしのおかげである!と!!!!!!!
この夫からの言葉は、旅行から帰ってきてひと月たった現在もわたしの心の中で未だ嬉しさが持続しているし、わたしの上機嫌は継続中である。
(ちょろいもんである・・・あれ?)
次はどんなプランを立てようか。
秋深くなってきたころに、どこか日帰りで紅葉を見に行くのもいいかもしれない。
そのころにはきっと夫は、食事前のテーブルの用意を一緒にやってくれていることだろう。
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料理ブロガー、料理家。兵庫県在住。
2005年にスタートした3人の子どもたちのリアルな日常と日々のごはんを綴ったブログ「母ちゃんちの晩御飯とどたばた日記」はライブドアブログで2018年に殿堂入りし、レジェンドブログに。
「1品1色で!野菜の”カラフル”つくりおき」(NHK出版・ムック)など著書多数。
東京、神戸での料理教室開催、雑誌、TV、食品メーカーのレシピ考案などでも活躍中。
2022/7/25発売の最新刊
1品1色で! 野菜の“カラフル”つくりおき
NHK出版(ムック)
NHKのEテレで絶賛放映中
月~木曜の21時55分~22時
(再放送は翌週月~木曜の11時55分~12時)
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