山本ゆりさん連載コラムseason2の第三回目『「なんでもいい」からの脱皮』
- 読売ファミリー
- 2021/05/12料理&コラム
「何食べに行く?」と聞いた時に、「なんでもいい」しか言わない人はいないだろうか。
2~3個に絞って提案しても「ほんまにどれでもいいから決めて」って言う人。
私のことなんですけどね。
これ同じタイプの方にはわかってもらえるかもしれないが、ほんまは頭に食べたいものがあるけど気を遣ってて何でもいいって言ってるんじゃなくて、心から別になんでもいいのだ。
だからあえて決めよう!その中の1つを言おう!って思うけど、なんでも良すぎて決められない。「どうでもいい」みたいな消極的な意味ではなくて、なんでもおいしいし、相手が行きたいところならたいていどこでも楽しいのだ。だから「最近どこどこにできたラーメン屋さんがめっちゃおいしいから行こ!」とか言って連れてってくれる友達はとてもありがたい。
そもそも嫌いな食べ物がないというのもある。パクチーとかホルモンとかちょっとクセのある食材も大好きだし、他人のお母さんが素手で握ったおむすびとかも全然いける。料理の仕事をしているため、味にうるさい人だと思われがちだが、うるさくないどころか私はどちらかというと馬鹿舌だ。馬鹿舌といっても、牛食べてんのか豚食べてんのかわからんとか、ハーゲンダッツとスーパーカップの違いがわからんみたいなのではなく、違いは全然わかるけど、何を食べてもおいしい。世の中の食べ物のほとんどがおいしいと思って生きている。めちゃくちゃおいしい物、おいしい物、まあおいしいものが世の中の大半を占めていて、普通なもの、あんまりなもの・・・ぐらいまではあるが、まずいと思うものってほとんどない。嫌いな食べ物もない。しいていうなら冷めたフォアグラ。(突然セレブか)
いや、冷めたフォアグラ、今年のお正月に注文したお節料理に入ってて初めて食べたんです。フォアグラなんて結婚式でしか食べたことないからすごい楽しみやったのに、食べた瞬間「脂質!!」てなって。味がどうとかもうわからん、なんせ一口ごとに「私が脂質だ」「私がね」とねっとりクリーミーに挨拶してきてどうしても呑み込めなかったんですよね・・・
でも温かいフォアグラは全然好きやし、とにかく普通にお店で売ってる食べ物なんてでおいしくなくても全然許せる範囲やわ。だから時々通販サイトのラーメンとかウニとかカニとかのレビューで「まずい。二度と買いません。★☆☆☆☆」みたいに書いてあるのを見るとびっくりする。いやいや、予想よりはおいしくなかったにしても、好きな食材である限り「まずい」まではなかなかいかんくない? アルデンテのかけらもないフニャフニャのスパゲッティなんかも、全然おいしくはないけど別にまずくはないし、失敗してカチカチになったチョコレートケーキやマフマフの食感のカップケーキなんかも、味だけでいけば別においしいし、なんやったら、「まずさがおいしい」みたいな、変なジャンルさえ存在してるわ。「この味気なさがまた・・・」みたいなパサパサのパンとか逆に手が止まらんしな。
苦手なシチュエーションも別にない。高級日本料理店やフランス料理屋に行こうが、コンビニでお弁当買って公園で食べようが、高架下の立ち食いそばとか串カツでも280円均一のチェーン店の居酒屋でも、オーガニック料理のお店でも長行列のラーメン屋でも、夜ご飯にマクドナルドでもどこでもなんでもうれしい。全部行きたい。
全部行きたい。
そういうわけなので、お店選びは自分が何を食べたいかより、相手が何が食べたいか、どこに行きたいかが重要になってくる。相手も「なんでもいい」って言ってるけど、実はスパゲッティ寄りの気分なのに、私がなんでも良すぎて適当に「お寿司」って言ってしまったりしたくなくて。こちらはお寿司とスパゲッティ完全なるトントン状態やのに。
あと実はなんでも良くない人もいるから余計に悩む。夫とかそうやけど「なんでもええで」って言いながら「じゃあピザ」っていったら「ピザはなあ~」とか、「カレー」って言ったら「昨日食べた」とかいうから、ほななんでも良くないやないかーい!!ってなる。って言ったら「いや、それ以外やったらなんでもいいって」と言われたりするのだが、絶対まだなんでも良くないゾーンが残ってるからな。だから自分の希望と見せかけつつ、頭の中で必死に「こっちのほうが食べたそうかな・・・」「ここはこの間行ったしあんまりか・・・」とグルグル考え、口に出した時の相手の反応をみて、前のめりじゃなかったら、「いや、やっぱりこっちにしよ!」と別の提案をしてしまう。
でもおそらくだが、世の中の多くの人は、自分が決めるより相手に決めて欲しいのではないか。そのお店があまり良くなかったりした場合の責任を取りたくないというのもあるし、なによりも相手の希望を優先したい、相手に喜んでほしいという気持ちの方がみんな大きいと思うのだ。なのでここ数年は、あえて自ら希望を述べるようにしている。一応初回は「なんでもいい」と言いつつ相手の反応を見て、相手が決めなさそうなタイプ、こっちに決めてほしそうやったら「じゃあ、お好み焼き食べへん!?」とか言ってみる。と言いつつすぐに「いややっぱりお寿司!・・・いや、うどん?いや、カレーやな!」とか増やしていってまうねんけどな。まあ10個中5個ぐらいには絞れるようになったし、結局、その方がその場の雰囲気が楽なのだ。一見図々しいおばちゃんの振るまいは、気遣いから生まれるものだと私は思う。
そして最近、この類の「おばちゃん化」が自分の中でどんどん進んでおり、同時に生きるのがどんどん楽になっている。もう少ししたら相手から「お寿司」と言われても「いやいや!もう私の口は焼肉やから!」と引っ張っていくのかもしれない。
山本ゆりさんに用意していただいた
オリジナル最新レシピを紹介
よみファ クッキング
山本ゆり プロフィール
料理コラムニスト。大阪生まれ&在住。著書「syunkonカフェごはん」シリーズ(宝島社刊)など著書は累計約700万部。最新刊「syunkonカフェごはん7 この材料とこの手間で「うそやん」というほどおいしいレシピ」ほか、「syunkonカフェ どこにでもある素材でだれでもできるレシピを一冊にまとめた「作る気になる」本」(扶桑社刊)など。新刊エッセイ「syunkon日記 おしゃべりな人見知り」(扶桑社)が発売中。
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