Categories: 料理&コラム

奥田和美(たっきーママ)さん連載コラム「漫画から学ぶ。」

漫画から学ぶ。その3

「すみれ先生は料理したくない」

私は料理研究家という仕事をしているが、料理をするのが好きでこの仕事をしているかというと、正直なところそうではないと思う。(いいのか)

料理が好きだからこの仕事をしている、というよりも、誰かに喜んでもらうのが好きで、誰かの役に立てていると感じたい、という方が大きいかもしれない。

そもそも、毎日家族のごはんや、自分のためのご飯を好き好んで作っている人はどのくらいいるのだろうか。

今まで色んな方からコメントを頂いてきたが、めちゃくちゃ料理が大好きで作りたくて作っているというよりも、必要に迫られて作っている人の方が圧倒的に多い気がしている。

そして私もその中の一人だ。

普段の私のリアルなお昼ごはん。

お弁当の残りの卵焼きとウインナーをごはんにのせるのが私にとってのごちそうだ。

そんなことより机の上が汚すぎることはお気になさらず。(気になるわ)

そんな私が大好きな漫画が

「すみれ先生は料理したくない」

私の本の編集担当者さんは漫画好き仲間でもあるのだが、

その編集担当者さんに「勉強になりますよ」と勧められて読んだのがきっかけだった。

容姿端麗、モデル並みのスタイル、上品で優しく優雅な30歳独身のすみれ先生は、ピアノの仕事をいくつかかけもちしながら、幼稚園の放課後ピアノクラブの先生もしている。

全てにおいて完璧なすみれ先生は周囲から
「きっと料理も上手でおしゃれなんだろう」
と勝手なイメージを持たれているが、実は料理が全くできない。

できることならしたくない、しないで生きていくために料理上手な王子様が現れないだろうかという淡い期待を抱きながら日々料理と戦っている。

ピアノだけで生計を立てるのは厳しく、実は生活費がカツカツのすみれ先生。

ある日冷蔵庫の中にある、いつ買ったかわからないじゃがいもや玉ねぎ、2か月間冷凍されたままの肉、賞味期限ぎりぎりの卵で何とか自炊をしようと試みる。

そんな彼女が頼りにするのはネットで話題の「キッチンお兄さんの簡単レシピ」だ。

その中で今ある材料で作れそうなレシピを探すと、「たったの3工程で失敗なし!超簡単」と書かれた肉じゃがのレシピがあった。

え、肉じゃがって簡単にできるものなの?それともキッチンお兄さんには何か裏ワザが?!

そして早速取り掛かろうとレシピを読み進めると、最初の「工程1」で衝撃を受ける。

「肉、じゃがいも、玉ねぎはそれぞれひと口大に切り、じゃがいもは水にさらしておく」

おいおいちょっと待てよ・・・

1つの工程に詰め込み過ぎやろ!

1工程と言いながら

1.肉を切る 2.じゃがいもの皮をむく 3.じゃがいもの芽を取る 4.じゃがいもを切る 5.じゃがいもを水にさらす 6.玉ねぎの皮をむく 7.玉ねぎを切る 8.水にさらす

・・・実質8つも工程があるやないか!

この調子だと

完成までに100工程くらいいくわ!

まるで富士山の山頂のように遠く険しい道のりに思え、肉じゃがより簡単そうなものはないのかと探し、スパニッシュオムレツのレシピを見つける。

なんとじゃがいもを切るだけでいいではないか!

がしかし、じゃがいもをピーラーでむこうとするすみれ先生の手が止まる。

ただじゃがいもの皮をピーラーでむけばいい。

そしてそれを包丁で切ればいいだけだとわかっているのに、

たったそれだけのことができない理由、それは・・・

すみれ先生は思いをピアノにのせて歌い始める。

「洗いもの~めんどくせえ~~~

 

じゃがいも1個のためだけにぃ~~~

ピーラー、包丁~、まな板~

卵混ぜるためだけの~ボウル~

 

仕事から疲れて帰って来てぇ~~

また料理という仕事してぇ~~

食べ終わってからも~~~

また洗い物という仕事~~~

 

仕事なのに給料は発生しない~~・・・

 

ひとりブラック企業ぉぉぉ~~~~

ジャジャジャジャーン!(ピアノの音)」

 

すみれ先生はとにかく料理がしたくない。

だが、幼稚園の放課後ピアノクラブをしているため、何かと幼稚園の行事に関わることとなり、それによって必然的に料理を作らざるを得ない状況に追い込まれるのだが、そのたびに致し方なく家で練習をしてみる。

味噌汁の出汁を取るレシピでの

「沸騰する直前で火を止め」

え、沸騰する直前っていつ?!と思っているうちに沸騰し、もう一度沸騰する直前を見極めようと繰り返すうちに水分がなくなり干からびる。

ステーキ肉をただ焼くだけのレシピの

「こんがり焼いて」

え、こんがりってどれくらい?!ぶ厚い肉だからもっと焼く?!と思っている間に丸焦げになる。

親子丼のレシピの

「鶏肉をひと口大に切る」

え、ひと口大ってどれくらい?!

一体誰のひと口なの?!

頼りにしているキッチンのお兄さんはいつも「簡単!」「失敗なし!」と言う。

そのレシピに対してのフォロワーもみな「簡単にできました!」とコメントしている。

レシピを見ながらしているはずなのに、何が違うのだろうか。

そしてすみれ先生はまたピアノを弾きながら歌う。

「オマエら “簡単” “簡単” たやすく口にするけど

 “簡単” 辞書で調べろぉ~~~

時間も手数も

外科手術並みにかかったやんけぇ~~~

この漫画で私は何度も声を出して笑った。

そしてふと、自分自身もすみれ先生のように「何もわからない頃があった」ということを思い出した。

すっかり忘れていたけれど。

ひと口大、適量、こんがり、色が変わったら、乱切り、スライス、ひとつまみ、たっぷり、いちょう切り、短冊切り、沸騰する直前、ふつふつしたら・・・

これらの言葉の曖昧さを、自分がわかっているからといって、みんながわかっているわけではないのだ。

確かに、何もわからなかった頃の私にとって、これらの言葉全てはとても不親切に映っていたはずだ。

この漫画から学んだ、というよりも、

この漫画を読んでから心がけ、私の格言となったのは

「すみれ先生にも作れるようなレシピを!」

である。

つねに「すみれ先生だったら、この部分がわからないかもしれない」と考えながらレシピを書いている。

編集担当さんが勉強になると、私に勧めたのはきっとこれだったのだ。

誰が作っても同じように美味しく作れるレシピを目指そうと、改めて思えたのは

すみれ先生のおかげだ。

料理が苦手な人、そうでない人も、ぜひ読んですみれ先生に共感してみてほしい。

そして、料理を作るのがめんどくさい、苦手、できれば作りたくないと思っているのは、自分だけではないんだと、この漫画を読んで安心してほしいと心から思う。

(ちなみに、すみれ先生が唯一成功したレシピは、スープジャーで作るお粥です!)

よみファクッキング
たっきーママのオリジナルレシピ

よみファクッキング

屋台のバター醤油とうもろこし

ミョウガの和風パスタ

【プロフィール】

たっきーママ(奥田和美さん)
料理研究家、お弁当プランナー

「料理レシピ本大賞in Japan ‘2016」入賞。
「レシピブログアワード」お弁当部門3年連続グランプリ受賞、レジェンド入り。
フードアナリスト、フードコーディネーターとしてテレビ、雑誌、広告の他、企業のレシピ開発などで活動。
著書では発行部数11万部超えの「朝すぐ!弁当」(扶桑社)他、累計118万部突破。

オフィシャルブログ
『たっきーママ@Happy Kitchen』

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