【 愛媛県版 】おじゃましまーす!
麦麹が醸し出す甘くまろやかな味噌
義農味噌 / 松前町
県内を始め、広く四国や九州で昔から食されている麦味噌。
創業から71年、変わらぬ味を守り、味噌作り体験教室を通して子供たちの食育にも貢献しているのが「義農味噌」だ。
愛媛伝統の味を全国に広めている松前町の本社を訪ねた。
◆ 大飢饉でも残された種麦
愛媛県は、麦味噌の主な原料となる「はだか麦」の全国一の産地。松山市南郊の松前町にある本社工場周辺は、見渡す限り麦畑が広がる。同社が製造する主力商品「伊予のみそ」はこの一帯の家庭で作られていた味噌の味を受け継ぎ、製造が機械化された後も製法が忠実に守り続けられている。「義農」という社名は1732年に起こった「享保の大飢饉(ききん)」の際、種麦を食べずに、自らの命と引き換えに地域の農業を守ったという農民の義農作兵衛に由来する。
味噌は麹の原料によって米味噌、豆味噌、麦味噌に分類され、全国生産量の約8割を米味噌が占める。四国や九州で主流の麦味噌は、国内の生産量が5%にも満たないという。同社の麦味噌は、麦麹が醸し出す自然の甘みとまろやかさが特長だ。製造部長の田中洋平さんは、「弊社では麦麹20に対して大豆1という麦麹がとても多い割合で製造しています。原料のはだか麦はできるだけ県内産にこだわり、国内産を加えています」と麹の原料バランスを説明する。
松前町の本社工場
衛生管理が徹底される工場
◆ 郷土の食文化を守りたい
昨今、愛媛県では少子高齢化による人口減が大きな課題となり、食文化の変化による味噌汁離れも進んでいる。そこで同社では、今年から社員が県内の幼稚園などに出向き、一緒に昔ながらの味噌作りを体験する「いよみちゃんの手作りみそ教室」を始めた。講座では味噌の原材料を混ぜて丸めた「味噌玉」を作り、樽(たる)に詰めて1〜2か月間熟成させる。出来上がった味噌は給食に使うほか、お土産として家庭へ持ち帰ってもらう。経理部長の亀岡靖枝さんは、「味噌を仕込み、育てる楽しみはもちろん、手作りした味噌を使った料理のおいしさと感動を子供たちと共有し、郷土の食文化を守りたい」と開講の思いを語る。
同社では6(むぎ)月30(みそ)日を「麦みそ食文化の日」と定め、毎年、全国のスーパーやデパートに出向いて、麦味噌を郷土文化として見直し、県伝統の味噌汁を振る舞う活動に取り組んでいる。昨年は200か所で1回1000〜2000食を提供したという。特販部課長の秀野哲也さんは、「全国でも珍しい甘くておいしい味噌汁は子供たちに好評で、着実にファンが広がっています」と力を込めた。(エリアライター/黒田仁朗)