【 島根県版 】移住バンザイ(東京 ▶︎ 雲南市)
耕作放棄地に〝人生のスパイス〟
合同会社山田屋 代表社員 山田健太郎さん/雲南市
◆ 週末農業から起業へ
29歳で東京から雲南市大東町に移住、地域の耕作放棄地を使って育てたスパイスでクラフトコーラなどを製造・販売しているのが山田健太郎さん(35)だ。大学時代は1年休学して世界を1周し、30か国ほどを訪ね歩いた。「この時、国や使い手によって魔法のように味わいを変えるスパイスに心ひかれました」と、のちの起業に至る出会いを語る。
卒業後は企業で働く一方、農業にも魅力を感じ、自宅近くの農園で週末農業を始めた。やがて大東町産のお米で事業展開する人と知り合い、週末は大東町で事業を手伝うようになる。そんな知り合いがいる心強さもあって就職から約5年後には大東町に移住し、ショウガやウコン、唐辛子などのスパイス栽培を開始した。移住した2018年は日本でクラフトコーラが発売され、話題になった年。スパイスを生かした事業として可能性を感じ、クラフトコーラを始め、ジンジャーチャイなどスパイスを使った商品開発にも乗り出した。
スパイスの栽培は地元の農家にも協力してもらっている。育ったスパイスは全て買い取り、商品の原料に。農家の人たちは収入アップとなり、山田さんは商品の供給を増やすことができる仕組みだ。そうして地元の人々と交流するうち、今年1月には事務所となる古民家を譲り受けた。「出て行く人が家を潰すにもお金がかかるから、あげるよと言ってくださったんです。まさか家を譲ってもらえる日が来るとは思いませんでした」と当時の驚きを振り返る。和室の一室をDIYで改修し、事務所に仕立てた。
◆ 広がった幸せの定義
事業仲間の一人、中野弘也さんは山田さんの会社員時代の後輩。かつての山田さん同様、東京との2拠点生活を送っている。「一緒に会社を経営する仲間としてスカウトしました。興味や価値観に似た部分があり、こうした働き方を楽しめると思いました」と山田さん。中野さんも「地に足が着く感覚があります。東京とは異なる環境で、ご近所さんと一緒に畑作業をしたり、サウナで談笑したりする中で、幸せの定義が広がりました」と語る。
山田さんには3歳になる男の子がいる。「家からすぐの場所でカエルやバッタを捕まえたりしています。庭に作った子供用の畑で一緒に野菜や果物を育て、収穫したりもする。そのような日々を過ごせるのは、移住して感じる幸せの一つです」とにっこり。
そんな山田さんと仲間たちの合言葉は「人生にスパイスを!」。スパイスで日常の食卓を彩ってほしいのはもちろん、スパイス栽培や商品開発を通じて、高齢化など農家の抱える問題に、ちょっとした刺激を与え、いろいろな人に新しい気づきや挑戦を促す。そんな事業をどんどん展開していきたいと、今後の抱負を語った。(エリアライター/今井順子)