伝統製法が深い味を醸す醤油(しょうゆ)蔵 ✽ 岡本醤油醸造場/大崎上島町
- 読売ライフ
- 2025/01/16中四国情報
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伝統製法を守り複雑で深い味を醸す醤油蔵
岡本醤油醸造場/大崎上島町
3代目社長の岡本康史さん(左)と哲也さん
◆ 自然が育む酵母
竹原港からフェリーで約30分、大崎上島町の北東部にある岡本醤油醸造場は、創業以来90年以上使い続ける杉の木桶(おけ)で、醤油の天然醸造を守る、今では稀有(けう)な醤油蔵だ。
蔵の中には高さ約1.8m、直径1.5mほどの大きな杉の木桶が30本並ぶ。空調設備はなく、窓が開け放たれ、3代目社長の岡本康史(やすふみ)さんは「海や山から吹く自然の風が酵母を生かし、この島ならではの醤油の味と香りを生み出しています」と特長を語る。
原料は庄原市の契約農家が栽培する大豆と小麦、香川県産の海水塩とシンプル。発酵のもとになる麹(こうじ)を造った後、材料全てを混ぜて「もろみ」にして、木桶で1~3年かけてゆっくりと発酵·熟成させる。酵母菌は長年使い込んでいる桶や蔵にも棲(す)み付いていて、複雑で深い味を醸す源にもなっている。
気温が高い時には、プツプツと音を立てて発酵が進む。そのため1日1~2回、約3mの櫂棒(かいぼう)で、もろみの中の麹や塩水の偏りがないように混ぜなければならない。機械化はしておらず、手作業での重労働だ。康史さんと一緒に蔵を守る弟の哲也さんは「毎日様子を見て酵母の〝ごきげん〟を伺っています。手を抜かないのが何より重要」と話す。
桶のもろみをかき混ぜる(写真提供/岡本醤油醸造場)
◆ 木桶で造る方法が合っていた
同醸造場は、1934年創業。現在は醤油やぽん酢などを年間約2万5000ℓと味噌などを生産している。昭和の初め頃、大崎上島町には醤油蔵が11か所あったと伝わる。全国にも小さな醤油蔵は数多くあった。しかし高度経済成長期に、中小の蔵が共同で工場を建て、当時の最新設備を導入して巨大なタンクで生産する流れが進み、木桶で造る蔵は減った。同醸造場はそれに参加しなかった。康史さんは「うちのやり方は古い。もっと上手なやり方があるのでは、と若い頃には思っていましたが、機械で木桶の中は均等に混ぜられない。結局昔からのやり方が、うちには一番合っていました」と話す。
3年ほど前から、木桶を使って醤油を造っている会社が共同で海外輸出をする活動に参加。スイスやイギリス、フランスなどでも販売している。康史さんは「海外での評判は上々。伝統製法を守り、積極的に出ていきたい」と意気込んでいた。(エリアライター/井東由里子)
大豆と小麦に麹菌を付けて麹を造る(写真提供/岡本醤油醸造場)