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徳島 ✽ 古代布「太布(たふ)」を伝え、守りたい ✽ 三嶋紗織さん (那賀町)

【 徳島県版 】移住バンザイ 神奈川▶︎那賀町

  古代布「太布(たふ)」を伝え、守りたい

三嶋紗織さん (那賀町)

古い太布を手にする三嶋さん

綿や絹の繊維が使われる以前、日本人は麻やコウゾ、バショウなどの植物の樹皮から糸を作り、布にして衣服や袋を作っていた。
コウゾから織られる「太布」はその一つで、全国で唯一、剣山の南麓の那賀町木頭地区に息づいている。
三嶋紗織さんは「消滅が危惧される太布を学び、生かしていきたい」と2023年に相模原市から移住してきた。

 「綿・絹」以前の布に興味
三嶋さんは東京の大学で文化人類学を学び、卒業後は会社員を経て、18年から21年までスウェーデンに留学。そこで伝統的な機織りを学んだ。帰国後は、「綿や絹の布が普及する前、人々は何を着ていたのだろう」という疑問から国内の古代布について調べた。その中で最も資料が少ない「阿波の太布」のことを知り、「とにかく、行って見てみよう」と那賀町を訪れ、太布作りを見たことがきっかけで移住を決意した。

「阿波の太布」を作る技術は国指定無形民俗文化財に指定されている。コウゾの枝を刈り、「こしき」と呼ばれる木製の蒸し器で蒸し、樹皮をはがし木灰でゆでた後、木づちでたたき、もみ殻をまぶして踏む。その後、川の水にさらし、河原に干して保存したものが材料となる。三嶋さんは「材料を木づちでたたいて柔らかくした繊維を指で裂き、一本一本つなぎ合わせて糸にする〝糸積み〟を施します。手足や腰など全身を使って織るのが特徴です」と説明する。

機織り機の使い方を説明する三嶋さん

 栽培から販売まで
三嶋さんは、コウゾの栽培から手がけたいと地元の人々の助けを借りて、畑を確保し、自生していたコウゾの根を移植した。「作ったものはちゃんと売って、使ってもらいたい」と名刺入れを作り、高知市内のデパートで販売し、手ごたえを感じた。地元では国内外の文化人類学者やテキスタイル関係者など、太布作りの見学者も訪れている。「西欧の方たちが日本の古い伝統工芸に鋭いアンテナを立てていることに驚かされました。今は太布を知ってもらい、販売することで再び地域のなりわいとしていくために必要なことを模索しています」と思いを話す。

自ら手がけるコウゾ畑

「糸を作ったり、機織りをしたりしていると不思議と心が落ち着き、癒やされます。昔からの作業を通して、実は豊かな時間を手に入れていたのかもしれません」と三嶋さん。今の生活は太布作りに限らず、身の回りのことすべてが興味の対象という。「都会にいるときはすべてお金に置き換わっていたけど、ここでは置き換わらないものに本当の価値があることを学びました」と笑みを浮かべる(エリアライター/黒田仁朗

太布で作った名刺入れ

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