井上かなえの「どこにでもいる普通のオバチャンの話」5 レシピ-海老マヨタルタルのご馳走マカロニサラダ
- よみふぁみ限定
- 2025/01/28井上かなえ
料理研究家の井上かなえさんが50代女性の日常をつづるユーモアたっぷりのコラム。
日々の買い物や美容の話、ごみ捨ての時に毎回合う人の話などなど……、
クスッと笑えて共感できるお話をお届けします。
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それは夫が出勤する朝の慌ただしい時間帯のことだった。
夫は洗面所で顔を洗ったり髭を剃ったりしている間、こちらはこちらでタイミングを合わせてキッチンで朝ごはんの用意をしつつ、そろそろ夫がこちらへ来る頃だなとコーヒーを淹れようとしたその時、夫のいる洗面所の方からドンガラガッシャーンと雷でも落ちたかというような派手な音が鳴り響いた。
何らかの重たいものを棚から落としたらしく、「ああーーー!」という夫の声が聞こえたが、それは落としてしまった後悔によるものではなく、明らかに朝のこの忙しいのに何で今落ちてきたんや(←自分が落としたくせに)という苛立ちが混じっている声だったので、(はいはい、わたしが片付ければいいんでしょ、あなたは先に朝ごはんを食べてとっとと出勤してくださいね)と思いつつ、「いいよ、わたしが片付けるから先ごはん食べちゃってよ」と言いながら現場にゆるゆると赴いた妻。
洗面所の棚から何が落ちたのかと見れば、夫の電動鼻毛剃りカッターであった。
一番上の段に置いているのだが、使用後に元の場所に置いたつもりがそこに小さな何かが落ちていたらしく、不安定な場所に置かれたことで落下したのだろう。
しかしわたしはそんな鼻毛カッターなどどうでもよかった。
洗面台のボウルの中には、無残にもガラス瓶が割れて中の液体が全て排水溝へ流れて行ったあとの馴染みのあるボトルが横たわっていた。
それはわたしの大切なおフランス製の美容液であった。
美しいゴールドのガラスのボトルに入っており、それを同じくガラスで出来ているスポイトで吸い上げ、たったの4滴を掌に受け止め、それを顔全体に馴染ませて使う。4滴と書いたが、最近の物価高騰のあおりを受け、もっと節約しなければと勿体ないので3滴ずつちまちまと使っていた。もはや目薬くらいの量ずつを大切に。
つい1週間ほど前に、大都会阪急百貨店まで行って買った、大切な美容液であった。とても大切な美容液であった(大事なことだから2回言いました)。
1週間しか使っていない(しかも3滴ずつ)、ほぼ新品同様のボトルである。
大事に使えば1年以上使えるのに ! ! ! ! ! ! ! !
落下してすぐに救い出してくれていれば、瓶の中にある程度は液体が残っていたはずなのに、夫は自分の鼻毛カッターのみを拾い上げ、わたしの美容液はガラスが割れたという理由により、すぐに拾い上げることすらしなかったため、わたしがゆるゆると現場に到着した時には貴重な美容液は無残にもほとんど排水溝へ吸い込まれていったあとだった。
割れた瓶を拾い上げ、美容液が散乱した洗面ボウルをみていたら不覚にも涙が出てきた。
なんならボウルにこぼれた美容液を一滴残らず手で集めたいくらいだった、ガラスが落ちているから無理だけど!
片付け終わった後、朝ごはんを食べ終わって慌ただしく出勤しようとしている夫の背中に「阪急百貨店にしか売ってへんのに!」「こないだ買ったばっかりやのに!」「まだ1週間も使ってへんのに!」「3滴ずつ大事に使っていたのに!」と恨みがましく言い立てたが、また買えばいいやんと思っているのか、全く響かない。
「○万円もしたのに!」と言うと、こともあろうか「ええ?!それは騙されてるわー!」とまで言われた!なんと腹が立つ!わたしの大事な美容液がかわいそう ! ! ! ! ! !
しかし夫が家を出る間際に「ショックで涙が出たわ……」と最後にダメ押しで悲しそうにポツリとつぶやいたのが相当効いたのだろう、
その日の夕方。
「今、阪急百貨店の化粧品売り場に来たけどなんていう名前の店だった?」
と猛反省したらしい夫からLINEが来た。
デパコス売り場に似つかわしくない、会社帰りの初老のオジサンの姿を想像して思わず笑ってしまった。
朝から悔しくて悲しくて、あまりにショックで誰にも言えず、何もする気が起きなかった妻、みるみるうちに機嫌を直す。
(ちなみに、夫の鼻毛カッターも割れていたので、電気屋の溜まっていたポイントで後日買い替えとなり、今後鼻毛カッターは棚の一番下に仕舞われることとなった)🏬
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今月のレシピ 海老マヨタルタルのご馳走マカロニサラダ
【材料】4人分
ショートパスタまたはマカロニ…100g
むきエビ…140g
ゆで卵…4個
キュウリ…1本
玉ネギ…¼個
プロセスチーズ…40g
塩・コショウ…少々
バター…10g
A〔 ケチャップ…大さじ1、マヨネーズ…大さじ3~4、ディジョンマスタード…小さじ2 〕
【作り方】
❶ キュウリは薄切りにして塩を振り、しんなりしてきたら水気を絞る。玉ネギは細かいみじん切りにし、水にさらして辛味をぬき、キッチンペーパーに包んで水気をしっかり絞る。プロセスチーズは1㎝角くらいに切り、エビは背ワタをとって大きければ半分の長さに切る。
❷ 鍋に湯を沸かし、塩を適量入れてパスタを袋の表示時間通りゆでる。ゆで上がり2分前にエビも入れて一緒にゆで、ざるにあけて湯を切る。熱いうちにバターをからめ、塩、コショウをふって冷ます。
❸ ボウルに①のキュウリ、玉ネギ、プロセスチーズと②で冷ましたパスタとエビを入れ、刻んだゆで卵とAも加えて混ぜる。
井上かなえプロフィル
料理研究家。野菜ソムリエ。忙しくても手早く作れてきちんと美味しいレシピが支持されている
毎日の家ごはんやレシピを紹介するブログ「母ちゃんちの晩御飯と
NHKきょうの料理出演や、おせち料理の監修、企業のメニュー
著書に「はじめての自炊練習帖」(ダイヤモンド社)、「野菜たっ